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Tue Dec 2 04:00 PM
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自分の掌に当たっていない部分で捕ったボールが、ミットのどこにあるのか、わからない。
スイートスポットみたいなところ本来はそこで捕りたいのですけど、ミットが大きいとかじゃないですから。
どれぐらいの大きさのミットまで操作できるのか。
いつもそこに入るわ。
いちばん困るのは、盗塁阻止なのですよ。
ランナーがパツと走ったら、わずか僕に与えられた0 ・何秒かの聞にボールを向こうに投げなきゃならない。
一回握り直したら、もう無理です。
大きいミットでできるのか。
ボールを探す時間なのでもちろん取れないですから。
で、走ったときだけ、掌のところで捕ればいいと思ったのですよ。
解決できれば、ミットは大きいほうが、メリットが多い。
今では、Y の選手はみんな大きくなりました。
H は普通の常識を打ち破ったわけである。
キャッチャーミットはどれくらいの大きさまで扱えるのか H は実験した。
キャッチャーミットは大きいと変化球やワンバウンドも取りやすくて便利だが、盗塁がある時はもたつく。
ミットのどこにボールがあるのか探しているうちに盗塁されてしまうからだ。
盗塁を刺すのは0コンマ何秒の勝負である。
そこで H は考えた。
「走ったときだけ、掌のところで捕ればいいと思ったのですよ。
解決できれば、ミットは大きいほうが、メリットが多い。
今では、ヤクルトの選手はみんな大きくなりました」と言う。
これに対して S は「かなり自分の頭で考えて実験するほうなのですね」と言っている。
まさに H が工夫したポイントを引き出すことに成功しているのだ。
H は非常に頭がいいので、大きいミットのデメリットをどう克服するかまでしゃべってくれたが、もし漠然とした質問なら「 Hさんのキャッチャーミットは大きいですね」「ああ、でかいのですよ」で終わったかもしれない。
「技術革新はどうですか」「いや、いろいろ試してよかったですよ」で終わってしまっただろう。
「いろいろやってみたのですけどね。
やっぱり大きいのでもやれたので、大きいほうが便利なので、そうしたら皆が真似しましたね」で終わる会話だってあり得る。
H は親切にしゃべっているが、そこまで話が出なかった時は、どういう質問をすべきだろうか。
私ならこう言う。
「でもそれまで誰も大きいキャッチャーミットを使わなかったということは、大きいミットには、それなりのデメリットもあるじゃないですか。
そのデメリットをどう克服したのですか」。
要するに弱点があるのではないか、その克服法は?という聞き方だ。
単に「デメリットは何ですか」という質問なら「大きいとですね、盗塁のときに困るのです。
ボールを探したら時聞がないので盗塁されちゃうのですよ」と答えて、そこで話が終わってしまうかもしれない。
「そのデメリットを克服する工夫をされたのですか」と聞くことで、「メリットのほうはこれこうで、デメリットはこうだから、それを工夫してこうしました」という答が返ってくる。
そこまでしゃべらせると「 Hは頭使って野球をやっているのだな」ということがわかってくる。
『 H 式』という本のねらいは、「野球は頭のいい人が上達する」ということを世に知らしめる点にあったのだろう。
野球選は頭がよくないと思われがちな時に、本当にうまい人は、創意工夫を凝らしているのだというメッセージを世に送りたい。
それほど野球は頭を使うおもしろいゲームである、というメッセージを伝えたいのだ。
本の目的ははっきりしているか、そのゴールに向かって順を追っていけば、確実目的地に行き着ける。
Hほど懇切丁寧にしゃべってくれる人ばかりとは限らないが、このように質問をつき詰めていくことによって、相手の本当に工夫したポイントが聞けるのである。
S 監督がH の経験に寄り沿っている本だ。
『 H 式』つまり H のやり方の本である。
だから相手のことについて勉強しておくのが質問者の基本だ。
S 監督も H についてよく勉強している。
ところがこれなしでいきなり相手にインタビューしてしまうのが、プロのインタビュアーにも時々見られる。
野球選手に向かって野球のルールを、基本情報を明らかに知らない人がするような質問をする。
私でも代わりに答えられる質問をプロの選手にしているのは、見ていて苦痛である。
その人にしか聞けないことを聞くのが礼儀だろ。
そのためには事前に勉強することが大切である。
日本のスポーツ番組は、私のようなスポーツ好きからみると、役に立たない質問が多い。
最近スポーツ・ジャーナリストが増えて来て、スポーツ番組は進歩したが、それまではひどいものだった。
「質問カー」のなさを決定付けるのは勉強不足である。
相手に関する情報がなければいい質問はできない。
たとえば私は最近、Mさんと対談したが、その時、 Mさんの本を読んでいった。
すると「紫のお化けが出ると言われていたという話だけれど、紫という色は当時どうだったのですか? 」といった具体的な質問がしやすい。
「当時は誰も着ていない色だったから自分が染め上げて作ったのです」という話に展開する。
相手のことを勉強すると質問の幅が広がる。
『 H 式』は、事前の勉強がよく効いている対話録だ。
沿いながら本質をついていく質問を学ぶのにいいテキストだ。
相手が専門家の場合は特にそうだが、できるだけ相手の専門性を尊重してあらかじめ知識をつけておき、それに基づいて質問するのが望ましい。
その例をあげたい。
仏文学者で映画批評家の H の『光をめぐって映画インタビュー集』( T 書房)は、 H が海外のすぐれた映画監督に連続インタビューしたものをまとめたものである。
この本全体に言えることだが、質問が非常にハイレベルである。
返ってくる答も恐ろしくクリアで専門的だ。
映画監督の仕事はここまですごいのかと素直に感動できる本だ。
H のように映画に詳しく、監督のことを勉強していて、知性がなければ、このような質問はできないだろう。
誰でも聞けるようなことはほとんど聞いていない。
もしインタビュアーが悪かったら、ほとんど何も聞き出せなかっただろう。
偏屈な映画監督なら、まったくしゃべってくれなかったに違いない。
H は質問者としてもプロフェッショナルだから、相手の監督が答えるレベルも変わってくる。
読者にとっては、映画監督の創作上の重要な秘密や制作のコツに触れることができるたいへん有意義なインタビューである。
そのひとつ、ギリシャの T 監督へのインタビューを取り上げよう。
どの質問もすごいが、たとえば T が今の時代について、悲観的な見解を述べたあとの H の質問には目を見張る。
「あなたの悲観的な視点にもかかわらず、あなたの映画を見ている限り、あなたはそうした見解には同意していない」あなたは同意していない、と言い切ってしまっている。
すごい質問だ。
普通の人がこんなことを言えるだろうか。
その少し前に、監督は孤立感や孤独感について話している。
「かつて、映画は、救済であり、問題の解消であり、闘争でもありえた。
いまでは、海中に浮かぶビンのような絶望的なものとなってしまった」と語ると、蓮賓は「映画作が真の作品を創造しうるのは、まさにそうした希望のない時代においてではないでしょうか」と話をふっている。
「絶望的なもの」と言っているが、「絶望的答えるほうとしても燃えるだろう。
真の映画作家は創造しうる」と言われると、「うーん」とうなってしまう。
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